伝えたいこと Ver. 2 "sincerity to science" その10

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あたしはマグカップに紅茶を入れて先生に渡す。自分の分も注ぐ。


先生は、軽く紅茶の匂いをかいで、一口だけ紅茶を飲んだ。そして論文の話をはじめた。
「discussion(考察)に関してね。新しい演算子の提案。このフレームワークは十分妥当だと思うし、これに対応する状態もなかなか画期的で良いと思うよ。ただ、やっぱり思い入れがあるせいか、他の人にはわかりにくい感じがあるかな。独りよがりの感は否めないな。それぞれの線形独立性の証明が成されていないし、各ベクトル間の重み付けも規格化も不十分だと思う」

さっきから、さんざんわかりにくいとか言われているし、駄目だしをされまくっている。どの点で批判するかが、研究者としての着眼点を反映しているはずなので、批判意見をきちんと押さえることは、自分の指導教官を評価することにもつながるかも、とか関係ないことを考えつつ聴いていた。


「一般的に考察は何を書けば良いのですか」と、一応聞いてみる。
先生はこんな感じで答える。


「近い研究結果との比較、検討はあると良い。まあ、どこかに君と同じくらい頭のおかしな人はいるはずだから、きっと似たような研究成果はある。そして、君の研究は実体験よりからの解析だけど、もう少し理論よりの研究があるはずだから、そっちを探してそれとの比較。さらに、introductionで書いたことと対応づけることが必要。「一つの答えを出した」なり、「その出した答えをもとに新たな問題提起ができる」というのでもいいかな」


先生の話を聞きながら、あたしは紅茶の匂いをかいでいた。紅茶のおかげで間を持たせることができるかなあ?などと、紅茶に対して失礼なことを考える。


先生の言う、「頭のおかしい」は褒め言葉だというのは、後に先輩に聞いた話である。あたしは、誉めるとか貶すとかそういうそういうこととは関係無しに、事実として「あたしの頭はおかしい」とうすうす感じていたので、別にそのポイントについては苛立つこともなく嬉しがることもなく、ふつうに聞き流したような気がする。


先生は紅茶をもう一口飲んで、さらに話し続ける。
「ちょっとresultsの話に戻るけど。やっぱり、図や表はもう少し綺麗に作らないとだめだね。論文の顔なんだから。論文の文章が引用されることはなくても、論文の図はいろいろな所で引用されたり言及されたりするもの。だから、ここは絶対に手を抜いては駄目。研究者としてのセンスが問われるところの一つでもあるから。図の大事さを説明したら何日でも語り尽くせない気がする」

「うーん、そうですか」とあたし。

図に対するこだわりは先生の部屋を見れば分かる。
あたしはまた部屋の中をぐるりと見回した。

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