女神のささやかな願い / Merciful Goddesses of Retaliation その17

タマキはスズナの方を見つめた。そして静かに話し始めた。

「夢見心地で、地上に訪れる信者の話を聞きながらいつも考えていました。誰かが神の依り代としての役目を担うことにより、地上世界は多くの災厄を避けることができる。でも、誰か一人が犠牲になるなんて理不尽じゃないのかとも思いました。ある程度務めたら、誰かが代わっても良いのではないかって、ずっと考えていました」

タマキに対しスズナは答えた。

「あたしも同意見かな。誰かが、この役目を担わないといけないというのはわかる。でも、それを一人の人がずっと負い続けるというのはおかしいと思う。交代でやればいいと思うの。1年とか3年とかそういうわけにはいかないかもしれないけど、10年とか20年たったら代わるべきだと思う。『誰かをスケープゴートにして他の多くの人が幸せになる』とか『名誉や崇拝などにより、人を人でないものに祀り上げる』とかね、そういうのが嫌いなの、あたしはね。誰かの善意にのっかり、感謝の言葉は口にするものの、自分たちは決して犠牲を払わない。払うそぶりも見せない。そして、そういう要素があるあたし自身もあのとき嫌になっていたと思う。それも、あなたと代わろうと思った理由の一つだと思うし」

「タマキ。あたしがね、あなたと代わることを了承したのはね。いろいろな理由があるの。まず、あたしだって罪の意識があった。贖罪の気持ちもあったの。そして、嫌な地上から逃げ出したいって思いもあった。あなたの話を全て信じたわけではないけど、あなたのことをかわいそうだとも思ったし、あなたを放置し続けた周りの人に少々憤りを覚えたのも事実だよ。伝承によれば300年以上の長きにわたって存在したものだし、恐れ多い思いもあった」

「前にも言ったけど、あたしは、あたし以上の憎しみを持つものがいることを確認したかったの。あたし以上の復讐心を持つものの存在を確かめたかったの。そして、あたしは安心したかった。あたしなんて取るに足らないものなのだって。でも、たった20年だといなかった。あと20年たってもいないかもしれない。でも、既に、人の身として、十分に長くそのようなものに触れたような気がする」

「タマキ。あなたの気持ちはわかった。もう一度、タカナちゃんがここへ来てくれたら、交代してくれるよう要請してみるよ。今は、それで良いでしょう。彼女は、目的を探していたから、もしかして、もう一度くるかもしれないね」
スズナは静かに淡々と話した後黙ってしまった。

「うん、ありがとう」
と答えて、タマキは封印区画から抜け出した。