伝えたいこと Ver. 2 "sincerity to science" その1

「伝えたいこと」http://d.hatena.ne.jp/sib1977/20100815/p1

に大幅加筆したものです。ちょっとずつ載せていきます。

あたし(23歳、女性、大学院生)の失恋経験について、A4の紙サイズで4枚にしてレポートにして提出した。あたしの指導教員(45歳、二児の親、性別不詳)は「これは、きちんと論文にして、雑誌に投稿しよう」と言った。


「血迷ったか」「担当教授、ご乱心」「研究室選び失敗! オワタ\(^o^)/」などのフレーズがニコニコ動画等で横に流れていく文字のようにあたしの目の前に流れていくのを意識した。


でも、腐っても相手は指導教員。落ち着かなきゃ。えっと、どこかの神父さんのように、素数を数えよう。2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、…。なんとか落ち着いた。素数に1が入らないのは素因数分解の一意性のためなんだっけ…。


必死に意識をそらし、逃避モードへと移行しつつあるあたしの心の一部を強引にねじ曲げ、あたしはきっぱりと言った。
「この内容ではaccept(受理)されるのは無理だと思います」


言い換えれば「嫌だ」と言う意味だ。このように、はっきりと拒絶したのに、先生ときたら、
「まあ、確かにいろいろ至らないことはあるよ。introduction(序論)は、きちんと先行研究を踏まえて書き直すべきかな。survey(調査)がもっと必要だね」
とおっしゃる。


先行研究なんてあるのかどうだか知らないが、先生があると言うのだからあるのだろう。あんまり読みたいとは思わないが。


現在いる場所は先生の居室。部屋の奥の半分には畳が敷いてある。畳が敷いてある居室はちょっと(?)珍しいかもしれない。一部は掘りごたつになっている。ここが先生の居室になる前は、化学系の実験室だったらしい。そして、実験装置を置くためのpit(穴)があった。たぶん、NMR(Nuclear Magnetic Resonance、 核磁気共鳴)用の超伝導マグネット(superconducting magnet)が置いてあったのではないのかな。そして、そのpitを掘りごたつとして利用しているらしい。先生は当然のごとくこたつに入っており、あたしも仕方なく先生の対面の場所でこたつに入っている。こたつ布団は白地で、黒い線によりカゴメ格子の模様が描かれている。カゴメ模様は竹細工の篭とかで見かけるもので、日本人の多くにはなじみ深い物だろう。こういう対称的な模様を見ていると落ち着く。フラストレーション(frustration)を感じたりする人もいるかもしれないが。


こたつは嫌いではない。今は冬だし、足下が暖かいのは良いことだ。問題としては、一度こたつに入ってしまうと出るのが難しいこと。potential energy(位置エネルギー)が低く、粒子がtrap(捕捉)されるようなイメージが思い起こされる。potential energy的に一様な空間をこたつが歪め、local minimum (極小)な場所を作っているような感じかな。地球の重力場に捉えられている衛星とかを想定してもらえると良い(とっても壮大だ)。


trap(トラップ、罠、落とし穴)と言えば、真空ポンプを思い出す。trapは、真空ポンプ本体と排気しようとする真空容器との間の配管に取り付ける。ポンプ本体から発声する油の蒸気が真空容器に逆流しないようにするためのもの。液体窒素などの寒剤で冷却して蒸気を凝縮させるのはコールドトラップだ。また、活性炭などの吸着剤で蒸気を吸着するトラップもある。こたつは、cold trap (コールドトラップ)ならぬ、hot trap (ホットトラップ)だな。


あたしがこたつから連想する物と言えばみかんと猫だ(?)。猫がこたつの布団の上に乗って寝ていたら、さらに居心地がよくなる気がする。猫を撫でているだけで、人は(「少なくともあたしは」の誇張表現である)癒されるのだ。しかし、さすがにここには猫はいない。知り合いに聞いところによると、別の大学で猫を飼っている教授がいるらしい。本当だろうか?窓を開けっ放しにして出張していたら、猫が進入していていつのまにか居着いてしまったそうだ。そのまま飼い続けることができるなんて、組織としてなかなか緩くて良い感じだ。


もしかして、掘りごたつの中に猫がいたりしないよね。開けてみないと分からないが・・・。開けてみないと分からないと言えば、シュレーディンガー(Schrödinger)の猫を思い出す。そのまんまだなあ。こたつの中を見たくなって、ちょっとそわそわしてくる。


そんなことを、こたつの上においてあるみかんが入ったカゴ(10個程度入っているようだ)を見ながら一瞬で考えた。あたしには、このような妄想癖がある。自分の頭の中で考えていたことを脈絡もなく、対話中にいきなり話題に出すので、「突飛な事を言う人」「相手の話を聞かない人」扱いされるのかもしれない。一応、相手の話を聞いているつもりだし、突飛に見えてもあたしの頭の中では辻褄があい、整合的であり、連続的なつもりなんだけどね。ただ、変な人だと思われていたほうがいろいろ楽な事も多いので、最近は敢えて訂正することもない。訂正しようと言葉を紡ぐと、結果として相手が余計混乱するし、なによりも面倒なのだ。


部屋の床の面積の残り半分は普通にリノリウムの床である。そちらの半分は一瞥した限りでは普通の大学教授の居室らしい。机、椅子、本棚、棚、大きなホワイトボード。水道やガスも利用できて、お茶くらいなら入れることができる。棚にはマグカップや湯飲みが並んでいる。紅茶やコーヒー豆も。流しの所には鏡がある。小さなゴミ箱が部屋の隅においてある。ゴミ箱は数百匹の兎が描かれている。兎と言えば、量子力学多世界解釈を思い出す、と言えるほどあたしは多世界解釈には慣れ親しんではいない。


この題材で論文を書くなんて、あたしは全く乗り気ではない。だが、1回入ったこたつからすぐに出て行くのも少し億劫である。名残惜しいと言い換えても良い。「どんだけこたつが好きなんだ、あたしは」と自分で自分に心の中でつっこむ。付け加えておくなら、こたつも良いけど、お布団の中にいる事も嫌いではない。死ぬときはお布団にくるまれて死にたいものだ。とは言っても、窒息死や圧死を望んでいるわけではないので、誤解なきよう。


自分を優しく包み込み庇護してくれるものを根源的にあたしは望んでいる気がする。子供じみた願いだとは思うけどね。子供が母親に抱かれることを望むようなものかな。お布団に対する信仰の由来はこれだろう。(どうも誇張表現が過ぎるな・・・)

「その2」 http://d.hatena.ne.jp/sib1977/20120307/p1 に続く