伝えたいこと Ver. 2 "sincerity to science" その9

http://d.hatena.ne.jp/sib1977/20120314/p1 の続き。

また妄想に陥っていたあたしを先生の声がサルベージする。
「ちょっとお茶でも飲もうか」と言って先生がこたつから出ようとしたので、「あたしが淹れますよ」と言ってこたつから出た。
「じゃあ、お願い」と先生は言い、またあたしのレポートをじっと見つめる。


温まった体に、こたつの外の空気は快い。畳の端まで行き、そこで靴を履いて流し台とガスコンロがあるところまで歩いて行く。


バルブをひねり、浄水器から水を出し、小さなやかんに入れる。やかんをガスコンロの上において、点火する。銀色の光沢を持つやかんの表面が一瞬だけくもるが、火をつける前の光沢を示す。


目の前の棚の高いところにはマグカップがいくつか置いてある。Maxwell方程式が書いてあるマグカップと、オイラーの公式が書いてあるマグカップを取り出す。黒い紅茶缶から適量の紅茶を取り出し、丸形のガラスのティーポットに入れる。お湯が沸くまでちょっと周りを見渡す。


棚にはマグカップ以外に置物がある。手のひらサイズの小さなうさぎの置物がふたつ。ちょっとデフォルメされている。色は黄土色。片方はティッシュで洟をかんでおり、片方は白いマスクをしている。あたし基準ではとっても愛らしい。ぎゅーっと抱きしめてやりたいくらい。でも、あたしもいい年の大人の女性であるのでそんなはしたないことはしない。・・・異論はないね?


自分で言っていて異論を思いついた。大人の一部の(多くの?)行動を見て「はしたない」と思う事があたしには多い。ある組織内の地位に由来する権力を使って「えげつない」ことをする人もいる。他にも「なんでこの人達はこんなに傲慢なんだ?」と、思う事も多い。


「ぎゅーっと抱きしめる」のは、はしたないうちには入らないかな? 今までの基準を弛めることにしよう。ちょっと前に流行った規制緩和というやつだな。規制緩和というのは、その内実をきちんと考えないといけない気がする。どのような波及効果があるのかも押さえておきたい。上品な謳い文句や、綺麗な字面だけを見て、中身はドロドロしているということはありそうだ。


右斜め前に、50cm(縦)×30cm(横)くらいの鏡があり、あたしの姿を映している。どちらかというと卵型の顔。肌は普通の人に比べて白いかもしれない。薄い青縁の眼鏡をしている。緩いウェーブがかかった黒い髪を、銀色の髪留めで留めてある。ポニーテールと見えなくもない。ひたいと耳は隠れていない。瞳は薄墨色をしている。耳は普通の人より大きいかな? 白いセーターに小さな銀色の鎖のネックレス。ついでに黒っぽいジーンズをはいている。身長は最近計測していないけど、165cmくらいかな。日本人の女性の平均身長より高いと思う。靴はスニーカーで、歩きやすさ重視。先生はサンダルを履いていることが多いかな、ってちょっと思い出す。鏡の中で動きがあったので、背後を見る。先生が窓際においてある植物に水をやりながら、外を眺めている。


水が沸騰しはじめたので、火を消す。やかんからティーポットにお湯を入れる。紅茶の葉にお湯を注いでいる時の匂いがあたしはとても好きだ。紅茶を飲むこと自体よりも、淹れているプロセスが好きかもしれない。その次が紅茶を最初に口に含む瞬間。口と鼻の中で、匂いがふんわりとひろがるあの感覚はとっても好きだ。緊張がほぐれて心地よくなり、優しい気持ちになる。紅茶を飲んだときに、今まで緊張していたとか疲れていたとか、そういうのの認識ができる気がする。


紅茶は本来ティーカップに入れるべきだろうけど、ここにはそういう洒落た物がないのだった。プラスチックでできた丸く白いお盆を取り出し、マグカップとティーポットを載せて、掘りごたつまで運んでいく。先生はどこからか、チョコクッキーを出してきたようだ。先生と長い間話していると、いつの間にかお菓子がでてくるような気がする。


論文を書くのをますます断りづらくなっているのかもしれない。外堀を埋められつつあるような気がする。研究室に所属したときに、「先生の話に付き合ったら負けだから」と、先輩が助言してくれた。ただ、「負けることが悪いことなのかはよくわからない」とも、何かちょっと困った顔でその先輩は言っていた。

「その10」 http://d.hatena.ne.jp/sib1977/20120318/p1 に続く。