『博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか?』(榎木英介)の感想7

博士漂流時代  「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス)

博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス)

感想と言うより、インプレッションの羅列に近いですがご容赦を。

今まで書いてきた感想は、下記URLにあります。

今回で最後にするつもりです。


「付録 博士の就職問題について識者に聞く」に関して。
橋本昌隆氏のコメントが凄い。p.256-257

ポスドク問題は、政策的に大学をどうするか、大学がこれから「どうあるべきか」ということとワンセットで考えないといけないと思います。総合科学技術会議などに顔を出しても、学長クラスの理事は、「金くれ、金くれ」しか言いません。旧帝大の学長レベルでも、それくらいの意識しかありません。
お金を稼ぐには、社会に対して、厳しくないといけません。特に大学は最高学府として、研究と教育と社会貢献(産学連携)を この3つに対してこれをやりました、こういう実績が出ました、と社会に対してきちんと説明できないと、お金の話などできないはず。それが問題だと気がついていない。

  • ニュースで出てくるのは、「金くれ」ばっかりだったけど、実際はまともな議論もしているんだろうな、と思っていたけど。一部の人は、本当に「金くれ」しか言っていないんじゃないかと心配になってきたよ。
  • もっと過激な事も言っています。楽しいので本書で堪能しましょう。
  • 他の識者のコメントも多岐にわたり面白いです。

「あとがき」に関して。

  • なんというか、「最後にこうきたかー」って思った。印象づける終わらせ方だけど・・・。こういう終わらせ方だから、「榎木さんの力作を前にして、この本が日本の博士への鎮魂歌のように思えるのが残念でなりません。」(「榎木英介著: 博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか?」のstochinai氏による書評 http://shinka3.exblog.jp/15513491/)とか言われてしまうんじゃないだろうか。
  • 最後まで読んだ人に「あなたはこの状況をよしとするわけ?」と静かに、でも強烈に問いかけている。

全体を読み終えて、派生していろいろ思ったことを。

  • ポスドク問題を考える上での良い入門書であると思う(最良と言いたいが、私がそんなに詳しく知っているわけじゃないので、自重)。ネガティブな過去と現在を書いているばかりではなく、ポジティブな現在・未来を描いているところも良いです。
  • 博士進学を考えているM1後半〜M2前半の人、進学した博士課程の人、今ポスドクをしている人は読むと糧になることが書いてあると思います。または、家族に博士・ポスドクがいる人も読んだら良いでしょう。目の前の問題を解決することに忙しいかもしれないけど、俯瞰した視点で自分達がおかれている状況を考え直すのも大事だから。
  • でも本当に読んで欲しいのは、大学の先生、文科省を含む官僚、政治家、企業の人かな。
  • この本は、博士の問題に触れているのだけど、それは要するに日本の社会の多くの問題点について触れているのと同じ事なのだと思う。博士の問題というのは、それが尖鋭化されて見えやすくなったものの一つなのだと思う。
  • 自らが所属している組織がうまく機能していないとしたら、それは何が問題なのか?そういうのを考えるきっかけになるかも。
  • 著者の筆致は時に情熱的ですが、基本的には誠実で軟らかい書き方です。涙が出るくらい誠実です。敢えて誰かを断罪するような事をせずに。断罪するより優先するべき事がたくさんあるから、「早いところそっちをみんなで推進しよう」って事なのだと思いました。
  • 全体を通して、ポスドクや博士課程の学生に対する愛を感じます。
  • 「博士漂流時代」というタイトルについて。漂流というのは、行く先が分からないまま流されているという意味かな。それは一般には不安なこと。でも、逆にそれを博士のアイデンティティとしよう、決められた未来がない事が博士たちのアドバンテージであり、誇りであると。そういうふうに私は読み取りました。
  • 学際的な研究が必要とか、間を埋める仕事が必要だと言われる。しかし、ある程度何か一つのことをきちんと学んだ人ではないと、間を埋める事は出来ないだろう。現代の問題は複雑化しているから。
  • 漂流している博士達。この人達すら活かすことが出来ない人が、偉そうな事を言っているわけ? 企業とか官公庁とか? とかとかね。もっと強気に生きるのも良いかもね。
  • 誰か困ったこと人がいるようだったら助けてあげる。でも、誰かを助けるにはリソースが必要。持続的に続けるためには、助けられた人が価値がある何かを生産して、それを次の人を助けるために使わないといけない。持続的な発展のためには何が必要かとかを考えた。

大学・研究関係で、私が面白いと思う本を載せときます。
大学の話をしましょうか―最高学府のデバイスとポテンシャル』(森博嗣)

、『科学の真実』(著:J.ザイマン,翻訳:東辻千枝子)
科学の真実

科学の真実