- 作者: エリオットソーバー,三中信宏
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2010/04/15
- メディア: 単行本
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http://d.hatena.ne.jp/sib1977/20111108/p3
の続きです。
この本の良いところ、というか訳書として良いところは、専門用語の日本語の後に英語が書いてあるところです。「最節約性(parsimony)」という感じで。とっても重要だと思います。
日本語にしてしまうと、理解しづらい概念というのはあると思います。逆の言い方だと、もとの英単語で示してくれば理解しやすいことがあります。日本語の単語と英語の単語は1対1対応しているわけではないですし。
あんまり煩いこと言うと、原文読めよ、という事になりますのでこの辺で。自分が専門じゃない分野の学術書を英語で読むのは辛いです。
今回は「第1章 生物学からみた系統推定問題」についての感想。
p.17
われわれが過去について知ることができるかどうかは、過去と現在を結びつける物理的プロセスが情報保存的なのか、情報破壊的なのかという点にかかっている。そして、この問題はアプリオリに(先験的に)解決できることではなく、現実に進行している個々のプロセスの特性と研究者が利用できるデータに依存している。
ここらへんが面白い。
「系統発生パターン」「進化プロセス」「単系統群」「共有派生形質」「共有原始形質」「全体的類似度法」「分岐学的最節約法」「ホモプラシー」「形質分布不整合」などの専門用語がでてくるようだ。
「1.1 過去について知るためには」
序言の難しくて濃い文章と比較してだいぶ読みやすくなります。
DescartesやRussellによる悪魔のお話・五分前に世界が出来ていた説などの哲学的問いの紹介。典型的な懐疑論。そして、実際の科学者の営みなどが書かれる。その後に、面白い文章がある。
p.19
いまわれわれが知らなければならないことは、哲学者のいう認識論的悪夢から目覚めるだけでは不十分であるということである。
ここらへんが面白い。
すなわち
過去に関する知識の獲得をめぐる認識論的問題は、科学の領域の内側でも生じ得るということである。
こういうふうに話を持っていくのが面白いな、って思った。
- そして、「プロセス」、「将来予測(prediction)」「過去予測(retrodiction)」などという言葉が出てくる。
- 情報破壊的(information destroying)とか平衡状態にある(eauilibrate)とかそういう言葉も出てきて面白いです。容器とボールの例が出てきて面白いです。どういう状況で過去を復元できて、どういう状況では過去を復元できないかにちての極端なケース。絵を描いてくれればいいのにって最初に読んだときは思いました。
p.22
過去についての特定の側面について知ることができるかどうかという問いかけをしなければならない。
こういう感じの話の流れも良いと思います。
「1.2 パターンとプロセス」
血縁推定(genealogical inference)、歴史科学、系統推定(phylogenetic inference)等の言葉がでてくる。
「種、言語、古文書」の血縁関係などについても触れている。社会的・政治的・経済的・芸術的伝統も進化するものなので、それにも祖先・子孫関係があると。
この本では木(tree)を扱うようです。枝の融合はないタイプ。融合するのが網状(reticulate)。
p.24
進化生物学の一分野である体系学(systematics)は、生物界の多様性の背後にある血縁関係の復元を目標としている。
そして、p.25
わたしが興味を持つのは、どのようにして血縁関係を推定するのかということである。推定された系統発生をどのように分類に反映させるのかについてはここでは論じない。
ここも大事な事だと思った。
種の系統発生を復元しようとする際に、体系学者はパターン(pattern)とプロセス(process)との区別が重要であるという。種間の祖先子孫関係(進化的類縁関係)がパターンに当たる。パターン論では、ある種が別の種の祖先であるという言い方をする。
ここも面白いです。
体系学者がプロセスといったとき、系統発生の過程での変化の原因に関するさまざまな因果的説明の事を差している。ヒトがサルから進化したというのは、生物界のパターンについての事実である。一方、そういう種分化がなぜ生じたのかという質問はプロセスの問題である。
私はあんまり進化の話は知らないけど、こういう説明は面白い。
p.26
したがって、分類の対象となる生物群は時間的に遡ればある一つの生成現象にきちゃくできるという仮定は、系統推定の問題を解く上で最低限必要な仮定であるといえよう。
この仮説は何故妥当であると言えるのか、という趣旨の話が出てきていろいろ面白い。
つまり、Darwinの『種の起源』の大部分は進化すなわち変化を伴う由来の仮説を擁護することに当てられていたのである。このことは、自然選択が生命の多様性を産み出した主要因であるというDarwinの提唱したもう1つの大仮説とは、はっきり区別しておく必要がある。
「由来の仮説を擁護」というのが面白いと思った。
p.26-27の
「すべての生物が単一の起源から発したと言える理由」〜「原生生物にみられる形質を拠りどころ」〜「進化プロセスの仮定を引き合い」
あたりが面白い。
ある仮定を正しいとみなすさいに、その仮定を支えるものの存在というか、そこらへんが面白い。
p.28
このように、無生物進化のプロセスについての前提は、原生生物で観察される類似性にもとづく推論とうまく調和する
この「調和する」という表現が気になった。
「論理的強度(logical strength)」という言葉がでてきて面白い。
p.29
このページも面白いんですが、
特定の血縁仮説だけが真であり、それ以外の対立仮説はすべて間違っているという結論は、データのみからひとりでに湧きでるものではない。信憑性の高いプロセス仮定をできるだけ少なく置き、データにもとづいて対立する複数の系統仮説を比較したいというのがわれわれの望みなのである。
信憑性の高い仮定をできるだけ少なく置くというのは面白いなって思う。
p.30
出てくる言葉として、
決定論的、演繹する(deduce)、逆行決定論的(backward deterministic)、確率論的(probabilistic)、相対的な確証度および非確証度(degrees of confirmation and disconfirmation)など。
形質分布データとプロセス仮定とが、この節では強調されていると思う。
「1.3 対象と属性」
表形主義(pheneticism)、全体的類似性(overall similarity)、特殊類似性(special smilarity)、分岐学的最節約法(cladistic parsimony)などの言葉が出てくる。
p.35に、単系統群(monophyletic group)というのが出てくる。系統推定における問題を凄い限定している感じ。でも、こんなに限定していても問題は難しいみたいだ。
p.38に、単系統群をみつけたとしても、祖先種かどうかの判定は極めて難しいとある。p.39で近縁種(relatives)についての仮説と祖先子孫関係の仮説の困難さについて触れている。後者が圧倒的に難しい。似ているだけではだめで強い証拠が必要になると。
p.39
結局、系統推定の目標は、対象分類群がどのようにして大小さまざまな単系統群を形成するのかを記述することであるといえる。
面白い。この後に出てくる図3とかも。
p.41で分岐図(cladogram)という言葉が出てくる。
図4も面白いな。
p.41-43
図4は、6つの系統樹(phylogenetic tree)を示している。私の用語法では、系統樹は分岐図を導くが、その逆は真ではない。分岐図は単系統群の存在を主張するだけで、それ以上のことは何も言わない。一方、系統樹は、単系統群の存在「だけではなく」、個々の祖先子孫関係についてさらに踏み込んだ主張をしている。分岐図では分類群の枝の末端にのみあるが、系統樹では末端だけではなく分岐点や根にも分類群が位置することがある。
こういうのも面白いです。
p.45
類縁関係の対立仮説に関係する分類群の特徴を全体的類似度法と分岐学的最節約法がどのように解釈しているのかに話を進めよう。
ふむふむ。
祖先的(ancestral)あるいは原始的(plesiomorphic)→コード0
子孫的(derived)あるいは派生的(apomorphic)→コード1
p.46あたりで、具体的な例が出てきて面白い。
共有原始形質(symplesiomorphy)は原始状態の共有による類似性。
共有派生形質(synapomorphy)は派生的状態の共有による類似性。
全体的類似性、分岐学的最節約方の結論の違いあ出てくる。そして、「形質進化に関して置かれる仮定が妥当かどうか」という問題が出てくる。
p.46〜48あたりの論理は面白いですね。
種ゼロの形質状態は、直接観察すればわかるわけではなく、推定されるものである。この推定、すわなち形質の「方向性」の決定をどのようにして行うかについては、第6章で論じることにする。
なるほど。これも面白い。
「1.4 形質不整合とホモプラシーの問題」
p.49
われわれはそろそろ理想郷での話をやめて現実の世界について考察しなければならない時期にきている。
実用上の問題を考えると言う事かな。
p.51
分岐学的最節約法の名前の由来がわかる。この推論方法は、進化的変化の回数が最もすくなくなる系統仮説が裁量の仮説であると主張する。
その後の議論もなかなか面白いです。
p.52で
ホモプラシーとホモロジーという言葉が出てくる。
2種の共有するある特性が、一方の種から他方に受け継がれたものかまたはその特性を持つ共通祖先から変化することなく遺伝されたものならば、その種の特性は多種の特性とホモロジー(相同:homology)の関係にあると呼ばれる。しかし、この類似特性が別々の起源に由来するものならば、その共通特性はホモプラシー(非相同:homoplasy)とされる。
前に読んだときも思ったけど、この概念はおもしろいな。
p.57
「系統推定での中心概念である最節約性は、一般には非演繹的推論に対する一つの制約条件としてこれまで議論されてきた」とあり、第2章で説明されるらしい。「この共通現任の原理(the principle of common cause)は、観察結果の因果的過去をたどる際の妥当な制約基準として支持されてきた」とあり、これは第3章で扱われるようだ。ここらへんも面白そう。
第2章の感想に続く。
次回は、1週間以内に感想書くと思います。