S=1/2反強磁性スピン鎖における境界束縛状態と電子スピン共鳴

http://www.phys.titech.ac.jp/seminar/news_detail.html?C1022/D2098

題目 S=1/2反強磁性スピン鎖における境界束縛状態と電子スピン共鳴
講師 古谷 峻介 氏 (東京大学物性研究所 物性理論研究部門)
日付 2012年1月26日(木)
時間 13:30-14:30
場所 本館2階 H284B 物理学科輪講

近年、低次元反強磁性体が数多く合成され、様々な理論上のアイディアが実験的に検証されている。1次元S=1/2反強磁性体 KCuGaF6およびCu-PMの電子スピン共鳴スペクトルはその好例である[1]。これらの物質は交替的な結晶構造のために一様磁場下で有効交替磁場を生じる。交替磁場はこれらの反強磁性体の低エネルギー励起を劇的に変える。電子スピン共鳴実験によって観測された種々の共鳴モードの多くは、ある可解な場の理論の模型、すなわちsine-Gordon模型、によって予言される低エネルギー励起との定量的な一致を示した。しかし、いくつかの共鳴モードは定性的にすら起源が不明のままになっている。本講演では、交替磁場のあるS=1/2反強磁性鎖中の非磁性不純物が電子スピン共鳴に及ぼす影響を議論し、上記の不明なモードのboundary sine-Gordon模型による説明を試みる。境界のある場の理論の帰結として、準粒子が伝播して境界において反射する際に、直ちに反射せずに「境界ポテンシャル」と束縛状態を形成することが導かれる。この束縛状態は境界束縛状態と呼ばれ、統計力学の分野では古くから知られているものであるが、実験的な観測・同定はできていなかった。本講演では、境界束縛状態およびそれに関わる複合的な励起モードが、上記の不明な共鳴モードを説明することを示す[2]。

参考文献:
[1] I. Umegaki, H. Tanaka, T. Ono, H. Uekusa, and H. Nojiri, Phys. Rev. B 79, 184401 (2009)
[2] S. C. Furuya and M. Oshikawa, arXiv:1112.1088v1