勘違いや間違いも混じっているかもです。重複がありますが、それは寄せ集め文章だからです。順番は関係あったりなかったり。
- スピン相関と「ESRのg値及び線幅」との関係は難しい。言い換えれば、私はあんまりよくわかっていない。
- なんとなくイメージはあるけど、現時点ではきちんと説明できない。
- でも、少しだけ。
- 短距離相関が生じている領域では、相関長程度のクラスター(・・・↓↑↓↑↓↑・・・)が鎖の中にいくつも生成消滅しているはず。交換相互作用の大きさに比して低温では、その寿命はそんなに短くはない。共鳴を考える際に、外部磁場だけではなく、それらの短距離相関に由来する局所的な磁場の影響を考える必要がある。
- 外部磁場だけを考えるなら、共鳴とはδ関数的であるべき(ただし、緩和時間無限大の時)。しかし、磁気双極子相互作用や短距離秩序に由来する局所的な磁場は、一つのスピンにかかる有効磁場の幅を広げる働きをするので、それが線幅の増大につながると考えられる。
- 温度が高い領域では、周りのスピンが完全にランダムなため、短距離相関もなく、それに由来する局所磁場も存在しない。(ただし磁気双極子相互作用はあるので、そちらに由来する局所磁場により、線幅は有限の値になる。)だから、局所磁場に由来する線幅の増大の寄与は小さい。
- 短距離相関が生じている領域で線幅を考える時は、「相関長程度の範囲でクラスター組んだスピン」が共鳴していると考える必要がある。
- 一次元系では、その種のクラスターが生成したり消滅したりしていると思われます。交換相互作用の大きさに比して低温では、その寿命はそんなに短くはない。
- スピンスピン相関が無視できるほど温度が高い場合を考えましょう。
- 基本的に、スピンが一個だと、鋭い吸収を示すと思われます。緩和先がせいぜい格子系しかないから、緩和時間が大きくなるはず。
- (線幅)∝1/(緩和時間)
- だから、線幅は細くなります。
- 先ほども書いたように、SROの発達とは、スピンスピン相関の発達です。
- スピンスピン相関があるとは、ある程度離れたスピン同士が、例えば同じ方向(逆方向でもいい、特定の角度θを持つ)を持って、いるということです。スピンスピン相関がないとは、離れたスピン同士がまったく関係ないランダムな向きを向いていると言うことです。
- スピン間にある程度の大きさの交換相互作用があるけど、周りのスピンがランダムな方向を向いている(つまり交換相互作用に比して高い温度、スピンスピン相関はほぼゼロ)時、スピンに与えられた情報はすぐに減衰します。
- スピンスピン緩和とは、格子系を考えずに、スピン系内で交換相互作用や磁気双極子相互作用を介してエネルギーのやりとりをして、スピン運動の位相がばらばらになる過程です。スピンスピン相関が発達している場合は、スピンスピン緩和が早くなるのか遅くなるのかはよくわかりません。
- 典型的な反強磁性体の場合はT_N近傍で線幅は発散的に広くなります。これに対して緩和時間が小さくなった、と言っていいものか?局所場の影響により線幅が広くなったのか。
- 複数のスピンが結晶中にある場合には、もう少し複雑になります。磁気双極子相互作用と交換相互作用の効果を考える必要があります。
- 磁気双極子相互作用はスピン間には必ず働きます。磁気双極子相互作用があるため、一つのスピンを見ると、そのスピンには外部磁場以外にも双極子磁場の寄与を考えないといけません。有効磁場が分布をするので、線幅が太くなります。
- 交換相互作用の寄与が十分小さい、磁気双極子相互作用により、ESRの線形はGauss型になります。そのような場合、『電子スピン共鳴』(伊達宗行)のp.95にあるように線幅が決まります。『磁気共鳴 -ESR -電子スピンの分光学-』(山内淳)のp.86でも良いです。
- 化学屋さんの扱う有機物(誘起ラジカル)のサンプルは線幅が細いものが多いですね。
- 有機物質は、スピン間の距離が遠いから、スピン間の磁気双極子相互作用の寄与が小さく、双極子磁場の寄与も小さく、線幅が細くなるのかな?
- 物理屋さんが扱う物質は、交換相互作用が無視できないというか主要な働きを示すものが多いです。磁気双極子相互作用由来の線幅は、交換相互作用により狭くなることが知られています。伊達本のp.33-34や、山内本のp.86に記述があります。
- 交換相互作用が大きいと、あるスピンに与えた情報は周りのスピンからの影響で、すぐ減衰しそうです。(交換相互作用というのは、バネみたいなもの。あるスピンを一つの方向に向けて、それを放すと、バネを経由して、周りから力がかかり、最初に向けた方向からすぐにずれる。バネに類するものがなければ、スピンは最初の向きを保持しやすい)。だから、緩和時間は早そうで、つまり線幅はなんとなく大きくなりそうですよね?
- しかし、交換相互作用は、双極子による局所場を平均化する作用があり、結果として線幅は双極子相互作用のみがある場合より鋭くなるようです。(「交換相互作用による尖鋭化」といいます。)
- 液体のスピン系では、スピンを持った分子が運動することにより、局所場が平均化され、線幅が小さくなることがあります。これを運動による線幅の尖鋭化といいます。分子の熱的振動や回転によっても、磁気局所場は平均化し、線幅は鋭くなることがあります。(ラジカルを含む系の線幅の細さは、もしかすると、そういうものが原因なのかもしれません)
- 温度が低くなると、スピン相関の効果が無視できなくなります。
- 温度が高いときは通常の電子常磁性共鳴と考えて良く、温度が高い場合の話を考えれば良い。
- 「スピンースピン相関が急激に減衰しない時」は短距離相関が生じているという意味になります。
- スピンが一個あって、それに有効磁場(外部磁場+磁気双極子による局所場)とエネルギーの散逸先としてスピン系や格子系があると考えれば良い。
- 強磁性共鳴や反強磁性共鳴は、マクロな一つ(反強磁性なら二つ)の磁気モーメントがある異方性のもとにおかれている。
- 強磁性秩序状態においては、N個のスピンが交換相互作用により結ばれ、一つの巨大磁気モーメント(M=Ngμ_B<S>)を作っている。反強磁性共鳴でも、二つの巨大な副格子磁化M_A=M_B=Ngμ_B<S>/2を持っている。強磁性共鳴及び反強磁性共鳴では、ある意味これらの巨大磁気モーメントを考えれば良い。
- 常磁性では、大きさがgμ_B<S>のN個の磁気モーメントがあり、一つの磁気モーメントに注目して周りからの影響は有効磁場や緩和に組み込んで考えればいい。
- でも短距離相関がある場合は、一つのスピンに注目するという近似ができず、相関長程度のクラスターが共鳴を起こしていると考える必要があります。
- 短距離相関がある場合は、どうだろう?ある程度のまとまったスピンのクラスター(相関長程度)みたいなのが共鳴を起こしていると考えれば良いのかな?
- 伊達先生の本のp.100に典型的な強磁性体や反強磁性体の線幅の温度変化に関することがのっている。温度を高いところから下げていくと、T_N付近で発散しています。
- 『丸善実験物理学講座7 磁気測定II 共鳴型磁気測定』の42ページあたりから書いてありますけど、次元性が下がると、スピン相関関数は減衰しにくくなります。
【2013年5月28日 追記 参考文献】
- 「低温の1次元量子磁性体およびそのESR の新理論展開」(押川正毅) 『電子スピンサイエンス』通号6 http://www.sest.gr.jp/bulletin.html (会員のみ)
- 「スピン相関におけるlong time tailと磁気共鳴」(永田一清) http://ci.nii.ac.jp/naid/110002074299
- 「低次元磁性体におけるスピン相関と常磁性共鳴吸収」(永田一清) http://ci.nii.ac.jp/naid/110002073054
- 「低次元磁性体」(伊達宗行) http://ci.nii.ac.jp/naid/110002067146
- 「低次元磁性体におけるEPR線幅の温度変化」(網代芳民) http://ci.nii.ac.jp/naid/110002073501/
- 『電子スピン共鳴』(伊達宗行)
- 〈丸善実験物理学講座〉7 『磁気測定 II 共鳴型磁気測定』
- 『電子スピン共鳴 素材のミクロキャラクタリゼーション』(大矢博昭、山内淳)
- 『磁気共鳴 -ESR -電子スピンの分光学-』(山内淳)
【2013年8月15日 追記 参考文献】
- 「磁場中の Cu benzoate と sine-Gordon 場の理論」(押川正毅)『固体物理』Vol.34 No.7 (1999)
- 「1次元鎖の束 Cu benzoateの磁気励起 -ESRでみる非線形励起-」(野尻浩之、浅野貴行、網代芳民、本川光博)『固体物理』Vol.37 No.8 (2002)
【2013年8月19日 追記 参考文献】
- Masaki Oshikawa and Ian Affleck "Low-Temperature Electron Spin Resonance Theory for Half-Integer Spin Antiferromagnetic Chains" http://prl.aps.org/abstract/PRL/v82/i25/p5136_1
- Masaki Oshikawa and Ian Affleck "Electron spin resonance in S=1/2 antiferromagnetic chains" http://prb.aps.org/abstract/PRB/v65/i13/e134410
【2016/06/27 追記 参考文献】
- Shunsuke C. Furuya, and Masahiro Sato "Electron Spin Resonance in Quasi-One-Dimensional Quantum Antiferromagnets: Relevance of Weak Interchain Interactions" http://journals.jps.jp/doi/abs/10.7566/JPSJ.84.033704