女神のささやかな願い / Merciful Goddesses of Retaliation その4

その9くらいで、新しいキャラが出てくるはずです。

しばらく歩いていると、社務所らしい建物が見える。ここから、本殿まではあと20分ほどあるらしい。
社務所の方を見て、タカナは質問をする。
「この神社ってお神籤とかお守りとか取り扱っているんですか?」
「扱っていないわけではなりません。表だって扱っていないだけです。欲しいとどうしても頼む人たち向けに取り扱ってはいます。」
タマキは立ち止まりその建物を見つめた。そして、タカナの方を見て、タマキは話を続けた。
「普通は、大吉・中吉・小吉・吉・末吉・凶・小凶・大凶とかありますよね。でも、うちの社で扱うお神籤には、吉とかは入ってません。凶とか大凶とかしか入っていないのです。『待ち人』『探し物』『健康』『生活』『金運』とかの個別の運勢に関しても少々書いてありますが『自分の努力でなんとかしろ』という趣旨のことばかり書いてあります。そもそもお神籤の内容で一喜一憂し、意志を曲げるような人はここに来るべきではないのです」

「さて、進みましょうか」とタマキは言って歩き始め、また話を続けた。
「絵馬もありますね。参拝者の願いと誓いを端的に書いていただいています。それを我々は一定期間預かっておきます。意志を形にしておくのは願いを達成するさいに効果的なこともありますからね。その程度の意味合いでそれ以上の効果はないと考えてください。お守りとかもありますけど、中身の一部は自分で書いてもらいます。『神に誓って、私は目的遂行のために遵守します』とかそういうふうに書いてもらいます。お札もそうですね。自助努力をせずに神に頼る人はそもそもここに来るべきではないのです。天命を待つのは人事を尽くしてからでも十分に間に合うのです」

これらの意見がこの神社としての見解であるのか、タマキの個人的な思想または哲学であるのかは、タカナにとってはっきりしなかった。タカナにとって、全面的に肯定できるわけではなかったけれど、考え方としておもしろいと思うことも多かった。こういう人が神社で働いている、というより神に仕えているというのは普通ではないのではないかな、と彼女は思った。

タカナはタマキの話を心地よく聞きつつ、「ええ」とか「はい」とか「うん」とか「その通りですね」とか「そんな考え方もあるのですね」とか嬉しそうに相鎚を打ったり、「こういう考えはできないでしょうか?」とか楽しそうに疑問を挟んだりしていた。

神社にはいろいろな人が訪問してくる。その人達をタマキは見て、いろいろ考えざるを得ないのだと思う。信仰に関していろいろ思い巡らし悩んだり考えたりすることが多いのだろう。このような話を不特定多数の人に、それも初対面の人に話すとは考えづらい。タマキにとって、初対面ながら、タカナに何か通じるものがあったのだと推察される。

タマキはさらに話を続ける。
「物と信仰とは大きな繋がりがあります。偶像崇拝は今でも世の中に多く満ちています。私としては、信仰心の維持のために物に頼り過ぎだと思うこともあります。しかし目的遂行のさいに物が心を支えたり鼓舞したり駆り立てることもあります。五感から受ける刺激が、無視できないと言うことですね。心の触媒という表現を用いてもよいかもしれません。だから、目的を忘れない限り、そのような物に依存することも必要かもしれません。大事なのは心を忘れないことです。これは、多くの宗教指導者がいつも心を悩ましてきたことと言えるでしょう。多くの人は、その偶像が象徴するものではなく、偶像そのものに囚われてしまうのです。『実在する物質』と『それに宿る精神』との関係というべきでしょうか。あるいは、『外見と中身』の問題。形而上と形而下の問題といってもわかりにくくなるだけかもしれませんね」

タマキは、ふう、と溜息をつき、
「かなり脱線してしまいましたね。神社について説明するはずが、難しい話になってしまいました」
と照れ笑いのような顔を見せた。


タマキは「ああ、そういえば」と言い、何かを思い出し、話し始めた。
「余談ではありますけど。周りに便乗的に商売を行うお店も出来たことがありますね。アクセサリとかマスコットなものとかですね。変わった物をあげると、人豚人形と言って、人の手足を切り離した人形とかですかね。大陸の故事が起源だと思いますけど、なかなか残酷ですね。あんまり良い趣味とは言えません。あと、『死人にあてる鞭』とか、『眠るときに使う薪』とか、『嘗めるための苦い胆』とか、よくわからないものもたくさん売っていましたね。『日が沈んだ後、家路が遠いことを表したイラスト』とかもあって、何かに夢中になっていると、人生なんかあっという間であることを思い起こさせられる気がします。毒薬とか、ナイフとか拷問道具とかは売ってはいなかったと思います。法律違反をするようなものは当然置いていなかったと思います。あのような店とうちの社は関係ないのです。別に、こちらの迷惑になるわけでもないので、どうで良い存在です。ただ、そのようなお店はあんまり儲からないみたいなので、すぐに潰れてしまうようです」
と言った後、タマキはまたクスクスと笑った。タカナはなんとなく、思い出し笑いをしているような印象を受けた。

(続く)

神社のアイテムネタ。他にも破魔矢とかも鈴とかいろいろあって、書こうと思えば書けそうだけど疲れたのでこれくらいにした。

私の父親は、物理屋さんだけど、神社とかお寺とかに行くのに抵抗はないし、お守りとかも買っている。どういうふうに折り合いをつけているのかはあんまりよくわからない。

私は、自分のためにお守りを買うことができない。だけど、他人からもらったら、その人の気持ちだと思って受け取ることができるし、他人に気持ちを伝えるためにお守りを買うのもありかな?って思う。お守り自体に御利益があるとは思えないけど、人の気持ちを伝える媒体としてなら受け入れられる。

このような考えに落ち着いたのはたぶん中学生くらいだと思う。大学生ってことはない。もしかしたら、高校生くらいだったかもしれないかな。今思えば変わった子供だな。