その11 「ちょっと複雑な気分」

25歳以下は読まないこと。


語り手は女性。年齢不詳ですね。

職場の後輩の男性から、またぬいぐるみを貰った。

「いつもお世話になっていますし」

とのこと。旅行のお土産らしい。彼は、いろんな人にいろんなお土産を渡すので、私に特に好意を示している、というわけではないと思う。

・・・ただ、そのぬいぐるみが問題なのである。問題といっても、呪われているとか盗聴器が仕込まれているとかそういうことはない。念のため。

何が問題なのかって?いや、別にたいした問題と言えるものではないんだけどね。

私の好みにぴったりなのである。もう、どうしようもないほどぴったりなのである。「くぅっ、可愛い」って感じである。「おのれ、どこでこんなものを」って感じである。「『雪の中のオコジョ写真集』を見つけるくらいの難易度だろうか?」と思ったりする。

過剰なデフォルメをしたぬいぐるみを私はあまり好まない。また、あまりにリアルになると嫌だ。鹿の首のはく製とか怖いし。手ごろなデフォルメ具合が大事なのである。だから顔が丸っこい熊のぬいぐるみなどは苦手である。具体的に言えば・・・、時事ネタになるようなことは言うべきではないか。

肌触りも大事。触っていて気持ちよくなくっちゃいけない。眠るときに枕元にあって、顔に触れるとちょっと気持ちいとかね。ぬいぐるみというものは飾っておくものではなくて、身に触れさせておくものだ。そういうのがわかってくれない人は困る・・・って別に誰も困らない?

縫合がしっかりしていることは大事である。ちょっと引っ張ったくらいで、縫い目が緩むようなものはいくら可愛くても落第点。その点で、彼は、きっちりとしたものを探してくる。というか、何で、男のくせに、そういう鑑識眼を持っているのか、というと男女差別であるかもしれない。

まぁ、鑑識眼というのは、訓練で培われるかもしれない。彼の良いところは薀蓄を語ったりはしないことだ。薀蓄を語られても私が困る。

「このぬいぐるみをきっと気に入ると思ったんですよ」とのこと。私の好みがばればれなのか?ってちょっと複雑な気分。

ちょっと複雑な気分?そう、ちょっと複雑な気分になるくらい良いでしょう?


一読した限りでは「無情・無関心・薄情」な感じ。でも、読み返すと「強い愛情・思いやり・慈しみ」が読み取れる表現。そういう文章にふれる機会がありますね。中性的な言葉に偏った意味を持たせる、またはマイナスにプラスの意味を持たせる演出。「その言葉自体が伝えたいことではない」というのは、物語の中ではよく使われる手法ですね。でも、そういう手法を私はけっこう好きです。

これは、言い換えると、再読させることができる文章、というものを私が好きだということです。力を持った文章が好きです。

だから、再読させることができるような文章を書いてみたいとも思います。でも、難しいですね。
謎があるだけでは駄目です。解いてみたいと思わせなければ。