その30 「それはあるいは瑣末な強がり」

25歳以下は読まないこと。読まないでね。

×の価値をもっとも理解しているのは私だとも思っていたし、思いたかった。×を私は占有したかったのだけど、なかなかそういうわけにはいかないものだ。

私の二個年上の女性で、×と私の共通の知り合いの××について少し話そう。彼女は見た目はとても凡庸な感じであまり目立たず、普段はとてももの静かで口数も少ない。表情もあまりバリエーションがない。たまににっこりすると、見ているほうがちょっとドキッとするぐらいだ。知識とかもあまりあるようには思えないし、議論らしい議論、会話らしい会話をする機会はめったにない。ポツリポツリと要点だけついてくる。最初は話し相手として物足りないと思っていた。会話のプロセスを楽しみたいということもあるし。彼女のすごいところは物事がどうなっていくのかを成り行きを見通してしまうことだ。どうしてそうなるかは説明してくれないし、本人も説明はできないみたい。だけどわかってしまう。本質的なところ、重要なものを不思議に悟ってしまう。×と議論をしているときでも会話が戸切れた跡にポツリととても重要なことを言うのだ。×とは違う意味で彼女には敵わないと思っていた。


××は普通の人には理解し難いかもしれないけどとても優しい。直接批判されたことはないけど、私の持つ差別の意識を批判していたように感じる。「弱いもの、醜いもの、無知、生きるための卑怯さ、無自覚、無恥」へ対する私の憤りを静かに諌めてくれたと思う。

「〜こんな考え方もあるよね」
「〜そこまで人は強くなれない」
「あなたはある種の条件を忘れている、自分が恵まれていることを意識していない」
「努力だけで得られたと思っている」

ここまでダイレクトじゃないけど、こういう感じの意見を言いたかったのだと思う。私はそれに対しすぐ反発するのだけど、後になってやはり××は正しかったと思うことがよくあった。


×とは人はいかにして生きるべきだとか、そもそもそういう問いは成立するのかとか、
そういう話をしたこともある。どれだけそういう基準が適用できるのかとかも考えた。
いかにも空想的で夢想的で理想主義的で誇大妄想気味な大学生らしいことも話した。私と×との会話を聞きながら××は何も言わない。


彼女はなんとなく諦観しているようなところがあった。「それは変えられない、仕方がないものなんだ」と思っていたのかもしれない。そして私が××にもっとも反発したのもその点だったと思うし、私が××に与えた影響は、「物事を変えようと思えば変えられる」ということだと思う。


××の思考の1つの欠点は自分の存在を繰り込んで考えることができなかったことではないかと思う。××は自分が含まれることを予想するのにはすこし失敗していたから。そういうふうに私と××は思考方法を少し交換した。


その僅かな交換が××が×を選ぶことを××自身に許し、××が×を受け入れることにつながった。その交換が私に×を失い、彼らと××であることを続けることを受け入れさせた。諦めることを受け入れたのだ。


その諦めが、×を後の私の行動に巻き込まなかったことの一因かもしれない。×だけしかいなかったら、おそらく私は×を巻き込んでいた。でも××がいた。


私が×を巻き込むことは××から×を引き離したいためだと考えられたし、そのように考えられたくはなかった。話せば×を私の計画に引き込むことは十分可能だと思っていたけど、‘‘些細なプライド’’が邪魔をしたのだ。巻き込まなかったことが良いことなのか悪いことなのかは今でもよくわからない。

ここでの語り手も女性です。