女神のささやかな願い / Merciful Goddesses of Retaliation その9

このお話は、キャラが3人しか出てきません。みんな女性です。

二人はエレベータから降りた。広くない部屋に出る。小さな照明が床にあるだけで、部屋は暗い。タカナの目の前には扉が一つ。タマキは、タカナに先に進むように促す。タカナは覚悟を決めたような表情をして歩みを進める。


扉を開けるとそこにはさらに暗い空間が広がっている。直径100メートル程度の半球。プラネタリウムのような半球。タカナはその暗さのため大きさをうまく把握できなかった。地上とは全く異なる静けさを持った空間。気温は低めでひんやりとする。タカナは肌がピリピリとするような緊張感を覚えた。床や壁の材質が硬質であるためか、音はよく響く。黒い光沢を持つ地面には、蛍光色で仄かに明滅する奇妙な文字や文様で占められている。照明と呼べるものは床の光のみだが、歩くのには不自由はない。


この空間の床は円をなしている。その真ん中に小さな人影があることをタカナは気がついた。タカナが歩いて近づくと、それは12〜14才くらいの娘であることがわかる。というよりも、娘の外見の女神なのだと思われる。この地に封じられた女神。この世界の復讐を司るとされる女神。


白い肌、薄墨色の瞳、肩胛骨の高さまで届く薄墨色のストレートな髪。薄墨色の和装に身を包んでいる。黒い小さな曲玉を複数つないだ首飾りをしている。耳には涙滴型の薄暮色の小さなイヤリングをつけている。さらに、黒い光沢のある細めのブレスレットとアンクレットをつけている。全てのアクセサリは、細かい文様が刻まれている。彼女は可愛らしいというよりも美しく、美しいというより神々しかった。別に光っているわけではないが、彼女が周りに醸成する雰囲気は、人に大きな緊張感を強いる。復讐と報復の女神から想像される禍々しさはないものの、一般の人間とは一線を画する何かを感じさせる。彼女の一挙一動が周りに緊張をもたらす。



彼女は気さくに話しかけてきた。声は柔らかで涼やか、口調は滑らかで軽やか、表情は優しげで楽しげ、立ち振る舞いはゆったりのんびりしている。表面上は何も恐れる要素はないはずなのに、タカナは本能的に強く戦慄した。刃物を胸元に突き立てられるような恐怖。瞳の1cm前にアイスピックの尖端があるような焦燥。高い崖の上から突き落とされそうな危機感。生死の境目にいるような緊迫感。何か対応しないといけないと、心を駆り立てられる。見ているだけで圧倒される。何かをしないといけないと、煽動される気分を味わう。呼吸すらおぼつかない、というほどではないが胸のあたりに圧迫感を感じていた。呼吸が浅くなっているのを意識したタカナはとりあえず、静かに深呼吸を繰り返した。一度、目を閉じ、こめかみに意識を集中する。蹴落とされてはいけない、ってタカナは思う。少し落ち着いたところで、目を開き、対象を観察する目で彼女を見た。


タカナが落ち着いて周囲を観測してみると女神の足下には白いウサギのぬいぐるみや狐のお面、小さな模型の飛行機、その他小さなおもちゃや人形がいくつも散らばって落ちていた。見る人がみれば、ガラクタといっても過言ではないもの。それらを見て、タカナは少し緊張が解けた。