量子スピン系のモデルいろいろ

たまには自分の研究分野のことを振り返ってみる。


量子スピンとか一次元系に関するレビュー論文はいくつか出ているので、時間があったら、そういうのを参考にしてもう少し中身のある解説とかが書けたらいいけど、たぶん書かないだろうなぁ・・・。




基底状態励起状態とを押さえておくと良いもの。厳密解はわからなくても近似解などがある場合は、それらを知っておくと吉です。今回は一応ハイゼンベルグ型の相互作用を持つもののみ考えてみよう。主要な交換相互作用は反強磁性的ということで。

とりあえず有限系の代表的なものと思われるものをピックアップしてみましょう。

  • 有限系(全て厳密に解ける)
    • S=1/2が1つ。磁場あり。
    • S=1/2が2つ。交換相互作用あり。磁場なし。
    • S=1/2が2つ。交換相互作用あり。磁場あり。
    • S=1が1つ。一軸異方性Dおよび磁場有り。
    • S=1が2つ。交換相互作用有り。磁場有り。
    • (おまけ) S=1/2が二つ。交換相互作用あり。DM相互作用および磁場あり。
    • (おまけ) S=1/2が三つ。等価な交換相互作用。磁場あり。
    • (おまけ) S=1/2が正方形に配置。最近接のみ等価な交換相互作用。磁場あり。

上の5つに関しては、固有状態と固有値を出して、磁化率・磁化過程・比熱がどうなるかを抑えておくと良い。ESRを実験手段として研究をしている人は、おまけの一番目の固有状態を出して、その後、直接遷移があるかどうかを確認しておくと良いと思う。



無限系は厳密解がわかっていないものが多いです。有限系で計算できそうなところまで計算して、無限系へ外挿して基底状態を予測したりします。ネール状態を基底状態だと仮定して、とりあえず分散関係を出したりもします。定性的にだいたいの性質が知れれば十分ということもありますし。

  • 一次元系(一部厳密解有り)
    • S=1/2 uniformな鎖。磁場なし。
    • Majumdar-Ghosh model
    • S=1/2ボンド交代鎖。
    • S=1/2梯子系
    • S=1 uniformな鎖。磁場なし。(Haldane系)
    • スピン・パイエルス系
    • (おまけ)diamond鎖
    • (おまけ)強磁性強磁性ボンド交代鎖

他にMajumdar-Ghosh modelをより一般的にしたZig-Zag鎖とか、デルタ鎖とかもありますが、私があんまり知らないので。

S=1/2 uniformな鎖といえば、Bonner-Fisher曲線とか、Griffithsの磁化過程とか、des Cloizeaux-Peasonの分散関係とかが思い出されますね。もうちょっとマニアックになると、Eggertらのより精密な磁化率の話を思い出すかもしれません。


Majumdar-Ghosh modelは無限系でギャップが生じる系です。基底状態が厳密に求められることから重要な例だと思えます。実際の系では交換相互作用の比が厳密に0.5というのは実際の物質ではありえないでしょうがそれっぽい物質はないのかな?と狙っているものの一つ。

Haldaneではちょっと変わったハミルトニアンを仮定すると、基底状態励起状態との間にギャップが生じることが理論的に示されます。S=1/2のuniform chainではギャップレスなわけだから、Haldane系が多くの人の注目を集めたのは当然だと思えます。


スピン・パイエルス系は、CuGeO3の研究されすぎだよ、って思います(文句があるわけじゃないけど)。無機系でもっといい感じのスピンパイエルス系はないのかな?って思っていて、これも物質探索したいことのひとつ。スピン系と格子系がカップルしている系というのは、魅力的な分野だと私は思います。ただ、実験的に、面白いことはいろいろでそうだけど、解析がすんごい大変になりそうだな、という感覚はある。最初はとりあえず、格子系とスピン系が線形で弱く結合するモデルとか、(SiSj)^2のタームを入れてみるとか。


おもちゃモデルで現象を解析できたらうれしいし、そのおもちゃモデルが深い物理的な洞察を導くものであるなら、さらにハッピーだ。私の研究のスタンスは、物質に物理を教えてもらう、という感じかもしれない。とは言うものの、こういう姿勢の弊害もあることを忘れてはいけないけどね。駄目な方向へ流されることもあるのだから。serendipityに頼りすぎな研究態度は駄目だとも思うし。


梯子モデルって、なんかもやもやしているなぁ、って実はあんまり好きじゃなかったのですが、朝倉君の研究結果をみて、かなり面白いと思うようになりました。不純物効果はすごい面白いや。というか出自の研究室の影響というのはそんなにすぐには減衰しないものですね。不純物効果が私のD論とは関わるし(梯子じゃないけど)。あれは論文書きたいなー。書かせてくれるかな?書いた者勝ちですか?

不純物以外でも、磁場の効果、圧力の効果などに関しても面白いと思えることはいろいろありますね。「スピン系における量子相転移が面白そう」とか馬鹿の一つ覚えみたいに私は言っていますが、これを研究するのはけっこうハードルが高いよねえ(研究対象の難しさや研究費獲得とか、いろんな意味で)って思います。


二次元系はあんまりよく知らないんですが思いつくものを。


正方格子は四つの隣接スピンを持ちます。フラストレーションはありません。基底状態はいわゆるネール状態のようです。ハニカム格子は三つの隣接スピンを持ちます。最近接しか交換相互作用を持たない場合、フラストレーションはありません。反強磁性秩序状態が基底状態となるでしょう。正方格子およびハニカム格子は、次近接の交換相互作用が反強磁性的で、その効果が無視できない場合はフラストレーションを持ち、もしかすると変な基底状態が生じえます。

三角格子は6個のスピンと隣接します。フラストレーション系です。基底状態は、秩序状態、らしいです。RVB状態(Resonating Valence Bond state)ではないらしい。交換相互作用のパスが4つしかないカゴメ格子は量子揺らぎの効果により、もう少し不思議な基底状態になるのではないかと予測されています。


Shastry-Sutherland modelは別名直交ダイマー系とも呼ばれます。ダイマー内の交換相互作用がダイマー間の交換相互作用に比べて十分に大きい場合には、基底状態は非磁性なシングレット状態で、磁気的な励起状態との間に有限のギャップを持ちます。



三次元系はパイロクロア型とか三次元的に相互作用する反強磁性ダイマーとか面心立方格子とかいろいろあるみたいですね。あんまり真剣に文献を漁った事がありません。


余談ですが、量子ゆらぎとか量子効果とか、そういう言葉は安易に使えないなあ、って学生の頃何回も思いました。もし自分が数式とかでその効果を示せない時は、安易にその言葉を使うべきではないのです。報告書とか論文とかで、量子ゆらぎとかそういう言葉を見かけることがありますけど
、本当に関係あるのかな?って思うことが多々ありました。まあ、だいたいが私の勉強不足に由来するんですけど。


とりあえず力尽きたのでこの辺で終わり。